最新作『無人地帯 No Man's Zone』(2012)
〜福島第一原発事故、失われゆく風景、そこに生きて来た人々〜
第62回ベルリン国際映画祭フォーラム部門正式出品作品

7/11/2013

本当に選挙を「棄権」してはいけないのか?


あと10日で参議院選挙の投票日だ。

おそらく投票率は、前回の衆院選挙と同レベルか、下手すれば(下手しないでも?)それより低いくらいのジリ貧になり、選挙特報番組ではキャスターや識者がしたり顔に「国民の無関心」をなじるのだろう。

選挙に行かないのは政治に関心が低く、つまりは民度が低いのだという(ホントか?)。選挙に行かないのなら政治に文句を言う資格はない云々。

こうした理屈は、本当に正しいのだろうか?

ここ二回の国政選挙について言えば、投票率の低さを国民のせいにする前に、選挙に行かないのはひとつのボイコットの在り方である、っていうくらいのラディカルな読み替えの視点を、一度まじめに検証していいように思える。

そりゃ投票率が低いと、それだけ自民と公明の組織票で与党勝利になると言われれば、その通りかも知れない。だが与党勝利を阻止するにも、これじゃあ誰に投票していいか分からないではないか。

いやもう、たとえば本当に「反原発」が目標なら、それこそ山本太郎なんてなんで立候補してんの? 

しょせんどうでもいい泡沫とはいえ、それでもこれでまた票が分散し、結果として原発をなし崩しに再稼働させたい与党有利になるだけじゃない



今回の選挙の争点は実質ひとつしかなく、それが情けないくらいに極めてはっきりしている(他の争点は与野党ともに、どうせかけ声倒れで中身がないのも含め)。

衆院で与党が圧倒的過半数を占める時に、参院でねじれを維持するのか、衆参共に与野党過半数にするのか、である。

そしてそれだけなら、結論は分かり切っている。

衆院で与党が2/3を確保している以上、どうしても必要がある法案だったら、参院で秘訣されても衆院に差し戻して可決すればいいのだし、政策決定の慎重さを期し、衆院圧倒多数与党の拙速を防ぐブレーキ機能として、参院でのねじれは維持すべきだ。



この日刊ゲンダイの見出しは、もしこの結果になるのなら、誇張でもなんでもなくなる。

そうでなくても三年ちょっと野党だったあいだに、自由民主党の政策運営能力は目も当てられないほど低下している。民主党政見の期待外れのていたらくに、前回総選挙でうんざりしていた我々に突きつけられたさらに厳しい現実は、それでも民主党の方が勉強しているだけまだマシだった、と言うことだ。

それくらいに、安倍晋三首相を筆頭に、今の自民党の言うことはメチャクチャである。実務もなにも分かっておらず、官僚依存度は極度に高い。その官僚がまた保身と組織保全優先で、たとえば外交上の非常識さのあまり失点ばかり重ねる首相というオツムの出来が悪い、甘やかされた猫の首に、ようよう鈴をつける度胸すらない。


しかしそう思って改めて候補者を物色してみると、東京選挙区ならつまり、自民党は武見敬三さんと丸川珠代さんなわけである。

うぅむ、以前だったら「武見ジュニア、二世なんて」と言ってたかも知れないが、今や自民党のなかではまだ数少ない、勉強はまだやってるし、ある程度はちゃんと世の中のことや政治の役割が分かっているマシな方、現職でいてくれた方がまだ安全かもしれない人ではないか

丸川さんはもちろん論外であり、なんとか落としたいところだが、公明党は委員長の山口那津男さんである。

委員長を落とせば公明党には大打撃だが、どうせ東京選挙区で公明党が揺らぐわけはない…。

…というか、どうせ東京選挙区は五議席なので、よほど野党が共闘して阻止、野党側で三議席を狙わない限り、与党がこの三議席を確保するのは、ほぼ確実なのである。

せめて丸川珠代さんは論外だから、野党側で三議席は確保すべきなんてとても狙えないくらいに、野党側候補が乱立し過ぎていて、いずれも主張に決め手が欠けるのだ。

民主党は鈴木寛さんの票が割れて共倒れにならないよう、公認を一本化した。

すると外された大河原雅子さんが無所属で立候補し、首相をやめたとたんに反原発になった(あんたなぁ、それは首相やってる時に言わなきゃ意味ないだろ?)菅直人が大河原さんを支持するという。

どっちもあまりパっとしないので、結局は票は割れるだろうし、それ以前に、かつての民主票が確保出来ているかどうかも怪しい。

民主党にかつてリーズナブルな年金制度改革など、安定した生活の政策的な担保を期待したりした票は、生活の党系か、あるいは共産党か社民党…はもうないだろうな、マスコミがちゃんととり上げないので知名度に弱みがあるものの、主張の中身からすればむしろみどりの風に、分散するだろう。

自民政権が第一次安倍内閣を境に官僚独裁色を強めたことに反発した層は、みんなの党か、下手すると維新に流れそうだし、反自民・反公明が主眼の票はそれ以外の泡沫(しかし東京選挙区は…また山本太郎…ですか?)にも分散する。

そのみんなの党と維新は、東京選挙区は芸能人系候補者である(山本太郎を嗤えない…)。

うぅむ、桐島さんのところの元イケメンのボンねぇ…。

維新から出馬の元テレビ・アナウンサー氏の街頭演説
「参院の機能を回復すべき」は正しいが、なら維新から出るか?


みんなの党は、官僚制打破を掲げるのはいいのだが、未だに「規制撤廃」だけが改革の旗印で、しかもそれが医療における混合診療容認、アメリカ系の保険会社の利益に沿って、日本の(いろいろ問題はあってもまだ世界一安定して公平な)医療保険制度をぶっ壊すことを公約にしている。アベノミクス批判も、それが人工バブルのからくりでしかないことには目をつむり、「規制撤廃を進めなきゃ本当の景気対策にならない」と、十年どころか二十年一日の主張しかない。

これではいくら官僚独裁を危惧するといっても、日本がどうも不況に見えるのは、年金制度が先細りなので老後を考えると預貯金を崩せない、そこで銀行にだけやたら金がプールされるキャッシュの流れの悪さが原因のひとつであることを考えれば、かつて民主に政権交代をさせた票はそっちには動けない。

ミッチー・ジュニアの志は買わないわけではないが、中身がしょせん、通産官僚出身者の唱える江田イズム的「官僚制打破」に過ぎず、社会保障の重要性が抜け落ちている

だいたい、規制緩和の「改革」なら、日本ではもう20年以上やって来たはずだ。それで景気はよくなりましたか?

医療や労働市場の規制撤廃は、かえって中産階級を痛めつけ、健全な消費能力を阻害し、買う人が減るからデフレ、そして可処分所得が一部に集中してますます給料は上がらず雇用は改善せず、官僚制は強化されただけ、という結果が、もう出てしまっているではないだか?

それに地方分権は、ここまで中央集権の制度疲労が激しい日本の現状では大いに論ずべき課題ながら、慎太郎と橋下以外はほんとロクな人材がいない維新なんて、自民との差異化を一生懸命宣伝していても、肝心なところでは結局極右化かつ官僚依存を強める自民と変わらない。

みんなの党もこうなると「規制緩和で官僚の権限を減らせ」だけの、馬鹿のひとつ覚えの迷走中だし。

党首の述べる党の政見や方針が筋が通ってる、というか主張がちゃんとあるしそれなりにしっかりしている、アベノミクスであるとか原発再稼働容認(それにしても「世界一厳しい基準をクリアしたから安全」と言い張る安倍首相って、本当に頭が悪過ぎるだろう?)、外交を無茶苦茶にする今の自民党に対する批判がそれなりに筋が通っているのは、生活の党と共産党、あとは間の抜けたマッチョぶったボンボンだらけの今の政界に女性の智慧を期待したいみどりの風だけだ。

だから比例はこのどれかに入れるとしても(比例票はまだほぼ議席に反映される)、東京選挙区はどうすればいいのか? 



民主系にしたって、鈴木寛さんと大河原雅子さんで票を分け合って「死に票」が大量に出て来るのは目に見えている。

代々木もねぇ吉良佳子さん30歳がどんな人かすら知らないが、反原発デモに熱心に通ってたという程度の経歴だけで、そこまで票が集まるだろうか?

代々木としては比例で議席確保できればいい、くらいの考えで捨て駒なんだろう。

だったらまだポスターの顔写真の比較(どっちがより賢そうに見えて美人か)と、党それ自体への期待(生活に根ざした根性ある女性たちの党みたいだし)で、みどりの風のまるこ安子さんか…と思いつつ、知名度の低さから、これも死に票になりそうだ。

繰り返しになるが、最大の争点は、要するに東京選挙区なら自民公明に三議席とらせないこと、少なくとも丸川珠代さんは落選させること、である。

と、ここまで悩んでも結局死に票になる、東京選挙区ならば自公で三議席はほぼ不動だろう。与党に三議席を与えないこと、を野党側が戦略としてまったく選んでないんだから、有権者の出来ることはほとんどないのだ。

せめて「この人は参院に行って欲しい」と有権者が思うような候補を、野党側が三人は並べなければ意味がない(しょせん、丸川珠代ごときを落とせばいいだけだよ?あんなのよりはマシな人なんて、探せば幾らでも出せるだろうに)。


それでも「選挙に行かなきゃ非国民」的な批判を、新興宗教の信仰告白みたいに繰り返して、本当に意味があるのだろうか?

世論調査であるとかの動向をある程度見た上で、どうも与党が圧勝しそうな流れならば、あえて投票に行かない、という選択もあると僕は思う。

どうせ反自民票が分散するのなら、史上最低の投票率という形で不信任を突きつけるという発想だって、なんらおかしくないではないか。

投票率がそれこそ30%代に留まるような結果になれば、現政権が「民意の支持を得た」とは、まともな感性があれば、とてもではないが言えない。

ところがマスコミでは誰も、そうは言わない、思わないんだろうね。

投票率が低いのは、選挙に行かない国民は、けしからん、この教条主義だけで思考停止こんなグズグズな選挙にしてしまった側、つまりは政治家たちのていたらくは一切報じない。

野党側が現与党の暴走を本当に懸念して、ねじれ維持を訴えるなら、どうせ負けて失う自党の利益の死守に拘泥するよりも、野党連合で候補者を絞り込んで、対決を明白にすることだって出来たはずだ

だが彼らには、しょせんやる気がないのである。

候補者を絞って与野党対決を明確化する、勝負に出ることすら出来ないのに、それでも「ねじれを維持するかどうか」だけが争点になる、まっとうな政策論争すら出来ない選挙に成り下がっているのは、政治家だけの責任ではない。政策論争を報道する能力を失っているマスコミの責任の方が大きいくらいだ。

とにかく今回の選挙は、不便・不都合が多いのは百も承知で、期日前投票は避け、朝に投票に行って後は日曜を楽しむことも避け、動向を見た上でギリギリで、投票先だけではなく、投票に行くかどうかそれ自体を判断することを、お薦めする次第である。

そして選挙に行かないと判断した場合は、「自分はボイコットしたのだ」とツイッターでもマスコミや政治家・政党のサイトのコメント欄なんでもいいから、大声で主張することを、ぜひお願いしたいのである。

だいたい、「選挙は行った方がいい」程度の言い方なら分かるが、「選挙に行かないヤツは」云々(「資格がない」だなんて、まるで「非国民」と言わんばかり)、行かないのは悪だの、政治や選挙結果を論ずる資格がないだのと言い出すって、どこまで権威権力服従嗜好の全体主義なのか、それだけでも気持ち悪いではないか。

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